不動産投資を行う際、多くの投資家は銀行などの金融機関から融資を受けて物件を購入します。
しかし、ローンを長期間抱えることに不安を感じ、繰り上げ返済を検討する方も少なくありません。
繰り上げ返済は、利息の負担を軽減したり、ローンの早期完済を実現したりする有効な手段ですが、一方で、資金流動性の低下や投資機会の損失といったデメリットも存在します。
この記事では、不動産投資における繰り上げ返済のメリット・デメリットを詳しく解説し、どのような人に向いているのか、また実施する際の注意点やタイミングについても紹介します。
ぜひ参考にしてください。
不動産投資における繰り上げ返済とは?

繰り上げ返済とは、毎月のローン返済とは別に、元本を前倒しで返済することを指します。
これにより、ローン残高が減少し、利息の支払い額が抑えられます。
特に長期間のローンを組んでいる場合、利息の総額を大幅に削減できる可能性があります。
繰り上げ返済には主に以下の2種類があります。
- 期間短縮型:毎月の返済額はそのままで、ローンの返済期間を短縮する方法。総支払額を減らす効果が高い。
- 返済額軽減型:返済期間は変えずに、毎月の返済額を減らす方法。キャッシュフローを改善する効果がある。
どちらの方法を選ぶかは、投資の目的や資金計画によって異なります。
長期的な資産形成を考えるなら、期間短縮型が有利ですが、月々のキャッシュフローを改善したい場合は返済額軽減型を選ぶとよいでしょう。

不動産投資で繰り上げ返済をするメリット

繰り上げ返済には、多くのメリットがあります。
以下のポイントを詳しく見ていきましょう。
支払う利息を減らせる
住宅ローンや不動産投資ローンでは、元本に対して利息が発生します。
繰り上げ返済を行うことで、元本を減らし、結果的に支払う利息の総額を削減できます。
例えば、以下のようなケースを考えてみましょう。
- 借入額:3,000万円
- 金利:2%
- 借入期間:30年
- 毎月の返済額:約11万円
この条件で借り入れを続けると、支払う利息の総額は約1,000万円になります。
しかし、繰り上げ返済で500万円を前倒しで返済すれば、支払う利息の総額を数百万円単位で減らせる可能性があります。
特に、ローンの初期段階では利息の割合が大きいため、早い段階で繰り上げ返済を行うことで、利息の削減効果を最大化できます。
返済期間を短縮できる
繰り上げ返済の「期間短縮型」を選択すると、ローンの完済時期を早めることが可能です。
これにより、長期間にわたるローン返済の負担から解放され、将来の資金計画が立てやすくなります。
例えば、30年ローンを25年で完済できれば、5年間分の金利負担をカットできます。
また、老後の生活資金としての貯蓄に余裕を持たせることができ、安心してリタイア後の生活を迎えることができます。
キャッシュフローの改善につながる
繰り上げ返済の「返済額軽減型」を選択すると、毎月の返済額が減少し、手元に残る資金が増えます。
これにより、以下のようなメリットが得られます。
- 空室期間や修繕費用に備える資金を確保できる
- 新たな投資に回せる余裕が生まれる
- 経営の安定性が向上し、リスク管理がしやすくなる
特に、賃貸経営では突発的な支出が発生することがあるため、キャッシュフローの安定化は重要です。
精神的な安心感を得られる
ローンを早く完済できれば、「借金がある」というプレッシャーから解放され、精神的な安心感を得ることができます。
特に、将来の収入に不安を感じている人にとっては、繰り上げ返済は大きな安心材料となります。
また、借金が減ることで、万が一の収入減少時にも対応しやすくなります。
融資を受けやすくなる可能性がある
不動産投資では、追加の物件購入のために新たな融資を受けることがよくあります。
その際、金融機関は借入残高や返済履歴を重視します。
繰り上げ返済により借入残高が減少すると、信用力が向上し、新たな融資を受けやすくなる可能性があります。
特に、以下のようなケースでは、繰り上げ返済の効果が大きいでしょう。
- 追加で収益物件を購入したいと考えている
- 低金利のローンに借り換えを検討している
- 金融機関との取引実績を良好に保ちたい
不動産投資を長期的に続ける場合は、融資戦略の一環として繰り上げ返済を検討すると良いでしょう。

不動産投資で繰り上げ返済をするデメリット

一方で、繰り上げ返済にはデメリットもあります。
これらを理解し、慎重に判断することが重要です。
手元の資金が減少する
繰り上げ返済を行うと、その分手元に残る資金が少なくなります。
特に、以下のような資金需要が発生する可能性があるため、注意が必要です。
- 突発的な修繕費
- 空室期間中の家賃収入減少
- 税金(固定資産税・所得税など)の支払い
これらの支出に備えて、十分な現金を確保しておくことが重要です。
運用資金が不足するリスクがある
不動産投資では、突発的な支出に備えるための運用資金を確保することが重要です。
繰り上げ返済を優先しすぎると、資金が不足し、思わぬリスクに直面する可能性があります。
例えば、以下のような状況が考えられます。
- 物件の修繕が必要になったが、修繕費を確保できない
- 空室が長引き、ローンの返済や管理費の支払いが厳しくなる
- 新たな投資チャンスが訪れたが、資金が足りず参入できない
特に、築年数の経過した物件は修繕費用がかかるため、急な支出に対応できる資金を確保しておくことが大切です。
繰り上げ返済をする際には、運用資金とのバランスを考えながら計画を立てましょう。
流動性が低下する
不動産投資において「流動性」とは、資産を現金化しやすいかどうかを指します。
繰り上げ返済を行うことでローン残高は減りますが、その分、現金資産が減少するため、流動性が低下するというデメリットがあります。
流動性が低下すると、以下のようなリスクが発生します。
- 急な資金需要に対応できなくなる
- 市場環境が変化しても、柔軟な投資戦略を取れなくなる
- 資産が不動産に偏り、ポートフォリオの分散が難しくなる
不動産は売却に時間がかかる資産であり、すぐに現金化するのが難しいため、ある程度の現金を手元に残しておくことが重要です。
機会損失が発生する可能性がある
繰り上げ返済に資金を回すことで、他の投資機会を逃してしまう可能性があります。
例えば、以下のようなケースです。
- 株式投資や投資信託など、より高いリターンが見込める資産運用に資金を回せなかった
- 新たな不動産投資のチャンスがあったが、資金不足で購入できなかった
- リフォームや設備投資に充てれば家賃収入が向上した可能性があったのに、資金がなく実施できなかった
金利が低い場合は、繰り上げ返済をするよりも、資金を運用に回した方がメリットが大きくなることがあります。
投資の選択肢を広げるためにも、繰り上げ返済のタイミングを慎重に検討することが重要です。
団体信用生命保険(団信)のメリットが減る
不動産投資ローンには、団体信用生命保険(団信)が付帯していることが多く、契約者が死亡または高度障害になった場合、残債がゼロになる仕組みになっています。
しかし、繰り上げ返済を進めることで、ローン残高が減少し、万が一の際の保障額も減少します。
つまり、本来なら団信で免除されるはずだった借入額を、自分で前倒しで返済してしまうことになるのです。
例えば、以下のようなケースを考えてみましょう。
- ローン残高3,000万円 → 繰り上げ返済で2,000万円に減少
- 契約者が死亡 → 残債2,000万円が免除(本来なら3,000万円免除)
この場合、1,000万円分は自ら支払った形になるため、繰り上げ返済をしなければ、その分の資金を別の用途に活用できた可能性があります。
特に、団信の保障内容を十分に理解した上で、繰り上げ返済を検討することが大切です。

不動産投資の繰り上げ返済はどんな人に向いている?

繰り上げ返済はすべての投資家に適しているわけではありません。
以下のような人には特に向いていると言えます。
安定した収入があり資金に余裕がある人
繰り上げ返済を行うと、手元の資金が減るため、収入が安定している人に向いています。
具体的には以下のようなケースが考えられます。
- 本業の収入が高く、生活費や投資資金に余裕がある
- 複数の収益源(賃貸収入・副業収入など)を持っている
- 将来の支出計画が明確であり、大きな資金需要が見込まれていない
反対に、収入が不安定な場合は、繰り上げ返済よりもキャッシュフローを重視した運用の方が適しているでしょう。
ローン金利が高い人
ローンの金利が高い場合、支払う利息が大きくなるため、繰り上げ返済の効果が大きくなります。
特に以下のような条件に当てはまる場合は、繰り上げ返済を検討する価値があります。
- 金利が3%以上の高金利ローンを組んでいる
- 変動金利型ローンを利用しており、今後の金利上昇リスクがある
- 固定金利での借り換えが難しく、金利負担が重い
金利が低い場合は、繰り上げ返済よりも資産運用に回した方が効果的なこともありますので、総合的に判断しましょう。
借入期間が長い人
借入期間が長いほど、支払う利息の総額が増えるため、繰り上げ返済のメリットが大きくなります。
特に以下のような場合は、早めに繰り上げ返済をすることで利息負担を軽減できます。
- 30年以上の長期ローンを組んでいる
- 借入初期で、まだ元本があまり減っていない
- 老後にローンを残したくないと考えている
特に、借入初期に繰り上げ返済を行うと、総支払額を大幅に減らせるため、計画的な返済が重要になります。
リスクを抑えた投資をしたい人
不動産投資では、ローンを活用することでレバレッジをかけて資産を増やす戦略が一般的です。
しかし、ローン残高が多いほど、金利上昇や経済状況の変化によるリスクも高まります。
リスクをできるだけ抑えて安定した運用をしたい人にとっては、繰り上げ返済が有効な手段となります。
具体的には、以下のような人に向いています。
- 借入額が大きく、毎月の返済負担を軽減したい
- 金利上昇リスクを回避し、将来的な負担を抑えたい
- 不況時にも安定した資産運用を続けたい
- リスクを最小限に抑えて、堅実な投資を志向している
繰り上げ返済を進めることで、返済額の負担を減らし、キャッシュフローを安定させることができます。
特に、景気の先行きが不透明な場合には、有効なリスク管理手法となるでしょう。
将来の資金計画が明確な人
不動産投資を行う際には、将来のライフプランや資金計画を考慮することが重要です。
繰り上げ返済を行うと、手元資金が減るため、計画的に資金管理ができる人に向いています。
例えば、以下のようなケースでは、繰り上げ返済が有効です。
- 定年退職までにローンを完済し、老後の負担を減らしたい
- 子供の教育資金や住宅購入資金など、大きな支出の予定がない
- 現在の資産状況を把握し、将来の支出とのバランスを取れる
- 収入の増加が見込めるため、積極的にローンを返済したい
繰り上げ返済を行うことで、将来的な財務の見通しをより明確にすることができ、安心して資産形成を進められます。

不動産投資の繰り上げ返済をする際の注意点

繰り上げ返済はメリットが多いものの、注意しなければならないポイントもあります。
実施する前に、以下の点を十分に検討しましょう。
資金計画をしっかり立てる
繰り上げ返済をすることで、ローンの負担を軽減できますが、手元資金が不足すると、予期せぬ出費に対応できなくなるリスクがあります。
繰り上げ返済を検討する際には、資金計画をしっかり立てることが重要です。
以下のポイントを確認しましょう。
- 生活費や固定費を支払った後に、余裕資金がどれくらいあるか
- 突発的な支出(修繕費・税金など)に備えて十分な資金を確保しているか
- 将来的な資金需要(教育費・老後資金など)を考慮しているか
- 繰り上げ返済をした後でも、新たな投資の資金が確保できるか
手元資金が不足すると、不測の事態に対応できなくなるため、最低でも数か月分の生活費や緊急時の資金を確保した上で繰り上げ返済を進めるべきです。
繰り上げ返済の手数料を確認する
金融機関によっては、繰り上げ返済をする際に手数料が発生することがあります。
特に、固定金利のローンでは、違約金が発生する場合もあるため、事前に契約内容を確認することが重要です。
手数料をチェックする際のポイントは以下の通りです。
- 一部繰り上げ返済にかかる手数料の金額
- 全額繰り上げ返済をする際の違約金の有無
- 繰り上げ返済可能なタイミング(契約から何年後かなど)
- インターネット経由での手続きが可能か(手数料が安くなることがある)
手数料が高額な場合は、繰り上げ返済をするメリットが減少するため、慎重に検討することが重要です。
他の投資機会との比較を行う
繰り上げ返済をすることで、利息負担を軽減できますが、その資金を別の投資に回した場合のリターンと比較することも重要です。
例えば、以下のような投資機会がある場合、どちらがメリットが大きいかを検討しましょう。
- 利回りの高い不動産投資案件への再投資
- 株式投資や投資信託など、安定した運用が期待できる資産
- リフォームや設備投資による家賃アップ
金利が低い場合は、繰り上げ返済よりも投資資金として活用した方が効率的な場合もあります。
どちらの選択肢がより資産を増やせるか、しっかりとシミュレーションしましょう。
急な出費に備えて現金を確保する
不動産投資では、突発的な支出が発生することがあります。
繰り上げ返済をした後に、手元資金がなくなってしまうと、いざという時に対応できなくなる可能性があります。
以下のようなケースに備えて、一定の現金を確保しておくことが重要です。
- 物件の修繕費(エアコン故障、給湯器交換など)
- 固定資産税や都市計画税の支払い
- 空室期間の家賃収入減少
- 緊急時の医療費や生活費
急な出費に備えるためにも、繰り上げ返済後に最低でも6か月分の生活費や運用資金を残しておくことをおすすめします。
金融機関のルールを事前に確認する
繰り上げ返済のルールは金融機関によって異なります。
以下の点を事前に確認しておくことで、スムーズに手続きを進めることができます。
- 繰り上げ返済の最低金額
- 繰り上げ返済できる回数や頻度
- 手続きの方法(オンライン可否)
- 手数料の有無
事前に金融機関に相談し、最も効果的な繰り上げ返済の方法を選択することが重要です。

不動産投資の繰り上げ返済と運用資金のバランス

不動産投資において、繰り上げ返済と運用資金のバランスを適切に取ることは非常に重要です。
繰り上げ返済を優先しすぎると、手元資金が不足し、新たな投資チャンスを逃す可能性があります。
一方で、ローンを長期間残すことで、金利負担が増えるリスクもあります。
どのようにバランスを取るべきか、以下のポイントを考慮しましょう。
キャッシュフローを優先するべきか判断する
不動産投資では、キャッシュフローを重視することが成功の鍵となります。
繰り上げ返済を行うことで、毎月の返済額を減らし、キャッシュフローを改善できる場合もありますが、手元資金を減らしすぎると、緊急時の対応が難しくなります。
以下の点を考慮して、繰り上げ返済をするかどうかを判断しましょう。
- 毎月の家賃収入と支出のバランスが取れているか
- 突発的な修繕費や空室リスクに対応できる資金があるか
- 将来的な金利上昇リスクを考慮する必要があるか
キャッシュフローが安定している場合は、繰り上げ返済を進めても問題ありません。
しかし、手元資金に余裕がない場合は、無理に繰り上げ返済をせずに、流動性を確保する方が賢明です。
物件の収益性を考慮する
所有している物件の収益性が高い場合、繰り上げ返済よりも新たな投資に資金を回す方が、資産形成の効率が良いことがあります。
一方、収益性が低い物件の場合は、繰り上げ返済を行い、早めにローンを完済することでリスクを軽減できます。
以下のようなケースでは、繰り上げ返済を検討すると良いでしょう。
- 利回りが低く、キャッシュフローが厳しい物件
- ローンの金利が高く、支払利息が大きい物件
- 長期間持ち続ける予定がなく、早めにローンを完済したい物件
逆に、高利回りの物件であれば、繰り上げ返済をせずに運用資金として活用し、新たな投資を検討するのも有効な選択肢となります。
リスクヘッジとしての資金確保を検討する
不動産投資は、長期的な視点での資産運用が求められるため、リスクヘッジのための資金を確保しておくことが重要です。
以下のようなリスクに備えるためにも、ある程度の現金を残しておくことが推奨されます。
- 空室リスク(家賃収入が途絶える可能性)
- 修繕リスク(突発的な修繕費用の発生)
- 市場リスク(金利上昇や不動産価格の下落)
繰り上げ返済を行う前に、これらのリスクに対応できる資金を確保しておくことで、安定した投資運用を継続できます。
長期的な投資戦略と整合性を持たせる
繰り上げ返済を行うかどうかは、投資家の長期的な戦略によって異なります。
例えば、短期間で資産を増やしたい場合は、ローンを活用してレバレッジをかけた方が良いですが、リスクを抑えたい場合は、繰り上げ返済を進める方が安心です。
以下のような戦略を持っている場合、それに応じた繰り上げ返済の判断をすることが大切です。
- 安定した家賃収入を確保し、長期的に保有する方針
- 一定の期間で売却を考えており、ローンを早めに完済したい
- 新たな物件を購入し、資産を拡大する方針
どのような戦略を取るかによって、繰り上げ返済の適切なタイミングや方法が異なるため、長期的な視点で計画を立てることが重要です。

まとめ|不動産投資の繰り上げ返済のメリット・デメリットを理解しよう

不動産投資における繰り上げ返済には、利息削減や返済期間の短縮、精神的な安心感といったメリットがあります。
一方で、手元資金の減少、流動性の低下、機会損失といったデメリットもあるため、慎重に判断する必要があります。
繰り上げ返済を検討する際には、以下のポイントを意識しましょう。
- 収入が安定しており、資金に余裕があるか
- ローン金利が高く、利息負担が大きいか
- 運用資金とのバランスを考慮しているか
- 将来的な資金計画が明確になっているか
- リスクヘッジのための現金を確保しているか
また、繰り上げ返済を行う際には、金融機関のルールや手数料を確認し、最適な方法で実施することが重要です。
不動産投資の成功には、長期的な視点での資産管理と計画的な返済戦略が不可欠です。
自身の投資目的やリスク許容度に応じて、最適な繰り上げ返済の判断を行い、無理のない運用を続けていきましょう。

